【The AI Conference 2025】信頼できる生成AIカスタマーサポート構築方法 − Cleanlab「Reliability by Design」アプローチ

By 野村 肇 Head of Sales, Ichizoku株式会社

本記事は、Cleanlab の Curtis Northcutt 氏講演をもとに、「Reliability by Design」で生成AIカスタマーサポートの信頼性を設計段階から担保する要点を日本企業向けに簡潔に整理します。スピード偏重の落とし穴/決定論的ガードレール/段階的拡張/リアルタイム評価の勘所を解説します。


重要なポイント
  • 「速さ」だけでは信頼は守れない
    NYCやAir Canadaの事例が示す通り、信頼性を設計に組み込まない限り事故は起きる。
  • Reliability by Design
    LLM × 決定論的ガードレール(正規表現ブロック、固定応答、ルールベース・ルーティング)で不確実×不確実を避ける。
  • 段階的に積み上げる
    まずは返金額算定/ポリシー引用など高信頼タスクから開始し、信頼性を維持したまま機能拡張。
  • 常時モニタリング
    リアルタイム評価とConfident Learning(不確実性推定)で誤回答を事前に遮断し、必要時は人間確認へ。

2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。


「速さ」だけでは顧客の信頼は守れない

セッションの前、廊下では「次の失敗事例になりたくないね」と冗談交じりの声が飛び交っていました。登壇したのは Cleanlab CEO & Co-Founder Curtis Northcutt(カーティス・ノースカット)氏。

彼が紹介したのは、NYCのMyCityチャットボットが違法行為を助言した事例や、Air CanadaのAIサポートが存在しない返金ポリシーを捏造し、実際に損失を出した事例。別の企業ではログイン規則を「創作」したAIが解約の波を引き起こしました。

これらは例外ではなく、信頼性を設計に組み込まない限り必ず起こる問題なのです。

なぜモデルが進化しても信頼性に欠けるのか

講演で特に印象に残ったポイントは次の3点です。

  • ハルシネーションは依然として発生 — 新しい大規模言語モデル(LLM)でも誤情報やエラーが減らないケースがある。
  • PoCは精度70%で停滞 — デモでは許容されても、本番のカスタマーサポートでは致命的な問題となる。
  • 「不確実 × 不確実」では信頼性は生まれない — LLMジャッジや確率的なガードレールを重ねても保証はできない。

結論:信頼性がAIサポートのアーキテクチャに組み込まれていなければ、規模を拡大するほどリスクも増大する。

Cleanlabの解決策「Reliability by Design」

​​Curtis氏は「信頼性はプロンプトの工夫ではなく、システム設計そのもので確保すべき」と強調しました。

1. 「不確実 × 決定論 = 信頼性」
LLMに決定論的なAIガードレールを組み合わせる。正規表現によるブロック、特定クエリへの固定応答、ルールベースのルーティングなど。

2. 段階的に機能を積み重ねる
まずは100%に近い信頼性が確保できるタスク(例:返金額の算定、ポリシー文言の引用)から開始し、信頼性を維持しながら機能を拡張。

3. リアルタイム評価を必須に
全てのAI応答を正確性、ブランド安全性、プロンプトインジェクションリスクの観点から検証。

これがCleanlabの提唱する「Reliability by Design」です。

信頼できる生成AIサポートの構成例

  • リアルタイム信頼性チェック:各応答を事前に検証し、不適切な出力をブロック
  • RAG+エージェントシステムにガードレールを実装ドキュメント不足や検索精度低下を診断、意図を正しくルーティング
  • Confident Learning(不確実性推定):低信頼スコアの回答は顧客に届く前に人間が確認
  • ノーコードSME制御:顧客サポート責任者やコンプライアンス担当が自然言語でAIの挙動を修正可能

限界を理解し、誤った自信を避ける

  • LLMジャッジは再現性に欠ける — 確率的評価では保証にならない。
  • データ追加=精度向上ではない — 再現率は上がっても、検索精度(適合率)が下がるケースがある。
  • 自前での信頼性エンジニアリングは高コスト — 専門チームと膨大な予算が必要。

なぜ経営にとって重要なのか

  • リスク管理
    70%精度はリスク。本番環境での1つの誤回答が、CSAT(顧客満足度)やブランド価値を大きく損なう可能性がある。
  • 安全性と信頼性の確保
    決定論的ガードレールにより、規制違反やレピュテーションリスクを未然に防止。安全性そのものが差別化要因となる。
  • 運用効率の向上
    SME(専門担当者)が直接調整できる仕組みにより、エンジニア依存を軽減し、運用コストを削減。
  • 実績による信頼
    金融機関や自治体での導入実績が、ソリューションの信頼性を裏付ける。

短期集中で実行するためのアクションプラン(私のメモ)

  • PoC段階からガードレールを組み込む。後付けでは遅い。
  • 狭い領域から開始し段階的に拡張。返金処理や注文状況確認から始める。
  • 指標を明確に計測。ハルシネーション率、ブロック率、CSAT改善度を追跡。
  • SMEを権限移譲。ノーコードで制御できる仕組みを導入。
  • 検索精度の根本改善。ドキュメントの欠落を埋めることが最優先。

日本企業への提言

  • PoCの段階から信頼性を組み込むことでスケール時の停滞を防ぐ。
  • SMEが自然言語でAIを制御できるようにし、運用コストを削減。
  • ブランドリスクを予防するため、競合情報や機密データの流出を防ぐAIガードレールを導入。
  • Reliability by Designを採用し、レイヤーごとに信頼性を担保しながら機能を拡張。

Ichizokuでは、企業がデモ止まりのAI」から「顧客に信頼されるAIカスタマーサポートへ進化する支援を行っています。効率性、パーソナライゼーション、コンプライアンス、そして信頼性を両立するシステムを一緒に構築していきましょう。


【FAQ】よくある質問

1. なぜ「速さ」だけでは不十分なのですか?

ハルシネーションや捏造は依然発生し、PoC精度70%のまま停滞すると本番では致命傷になり得ます。設計段階で信頼性を組み込む必要があります。

2. 「Reliability by Design」とは?

LLMに決定論的ガードレールを組み合わせ、正規表現ブロック/固定応答/ルーティングなどで出力の安全域を確保する発想です。

3. どこから始めればいい?

100%に近い信頼性を確保しやすい狭い領域(例:返金額算定、ポリシー文言の引用)から着手し、段階的に拡張します。

4. 運用時に必須の仕組みは?

リアルタイム信頼性チェック、RAG+エージェントへのガードレール実装、Confident Learningで低信頼スコアは人間確認、ノーコードでSMEが挙動修正できる仕組みです。

5. ありがちな誤解・限界は?

LLMジャッジは再現性が弱い/データ追加が必ずしも精度向上に直結しない/自前の信頼性エンジニアリングは高コスト。指標(ハルシネーション率・ブロック率・CSAT)を計測し、PoC段階からガードレールを組み込むのが現実的です。

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