By Jay Revels CEO, Ichizoku株式会社
本記事は、Writer社 Sam Julien 氏の講演をもとに、SDLCでは捉えきれないエージェント型AIに対し、ADLC(Agent Development Lifecycle)で成果を出す要点を日本企業向けに簡潔に整理します。成果志向・適応性・非決定論を前提に、評価とガバナンスまで含めた実装指針を解説します。
重要なポイント
- SDLCの限界を前提化
エージェントは成果志向・適応的・非決定論的。従来の決定論依存の枠組みでは運用できない。 - ADLCへの転換
開発・監視・拡張を通し、成果志向/適応性/継続監視を中核に据える。 - 3つの問いで設計
何を作る、誰が作る、どう作るを明確化(自律性のスペクトラム、役割分担、行動設計と評価・ガバナンス)。 - 日本企業の要点
KPI定義、役割受容、評価とガバナンスの優先、PoC止まりからの脱却で本番成果に直結。
2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。
旧来のモデルを超えて
サンフランシスコで開催されたThe AI Conferenceで、Writer社のDeveloper Relationsディレクター Sam Julien(サム・ジュリアン)氏の講演 「Understanding the Agent Development Lifecycle in the Enterprise」 を聴講しました。最初に強く印象に残ったのは、従来のソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)は、エージェント型AIの負荷に耐えられなくなっているというメッセージでした。
これまでのエンタープライズ開発は、入力に対して予測可能な出力を返す「決定論的」な仕組みを前提としてきました。しかし、AIエージェントは成果志向・適応的・非決定論的であり、従来のフレームワークでは対応できません。日本企業が2025年以降、AIを本格的に活用するためには、この発想の転換が不可欠です。
ADLCとは何か
Julien氏が提唱したのが Agent Development Lifecycle(ADLC) です。これは、AIエージェントを開発・監視・拡張するために必要な新しい方法論です。
SDLCとの違いは以下の通りです。
- 成果志向(Outcome-driven): タスクではなくビジネス成果を目指す。
- 適応性(Adaptive): 環境や状況に応じて行動を変える。
- 非決定論的(Non-deterministic): 毎回同じ結果を返すとは限らず、継続的な監視が不可欠。
つまり、SDLCに固執する企業は失敗し、ADLCを受け入れる企業が勝者になるということです。
日本企業が考えるべき3つの問い
講演では「エージェント開発」における3つの重要な問いが示されました。
1. 何を作るのか?
エージェント活用を「自律性のスペクトラム」で整理することが重要です。
- 低自律性:FAQ生成やレポート作成など、構造化された処理
- 高自律性:コーディングやリサーチのような複雑な業務
- ハイブリッド:契約書レビューやRFP対応など、人間とAIが協働するケース
複雑なシステムを作るより、ROIを最大化できるシンプルなアプローチを選ぶことが成功の鍵です。
2. 誰が作るのか?
AIエージェントはMLエンジニアだけの仕事ではありません。新しい役割が求められます。
- エージェントオーナー:PMに近い立場で成果を定義し、プロトタイピングやプロンプト設計を担当
- ビルダー:開発者やオートメーションエンジニアがシステム設計や統合を担当
ビジネス部門と技術部門の密接な協働が成功の条件です。
3. どうやって作るのか?
ADLCの実践では、次の要素が重要です。
- 成果ファースト:明確なビジネスインパクトを定義する。
- 行動設計:エージェントのガードレールや適応的な振る舞いを設計する。
- モジュール化:再利用可能な仕組みを作り、全社的に拡張できるようにする。
- 評価(Evals):従来のQAではなく、失敗モードを分類・分析し継続的に改善する。
監督とガバナンス:エージェントの行動を記録・監査し、透明性を確保する。
日本企業への示唆
IchizokuのCEOとして、この講演は日本市場に非常に大きな示唆を与えてくれると感じました。日本市場では、信頼、コンプライアンス、そして運用の卓越性が絶対条件だからです。
日本企業が注力すべきポイントは以下の通りです。
- PoC止まりからの脱却
実証実験ではなく、本番稼働で成果を出す仕組みを整える。 - 成果に直結するKPIを定義する
コスト削減、処理時間短縮、顧客満足度向上など。 - 新しい役割を受け入れる
ビジネスユーザーがプロトタイプを素早く作り、エンジニアが拡張性と安全性を担保する。 - 「評価とガバナンス」を最優先にする
信頼性や説明責任を重視する日本市場においては、ADLCの思想が競争優位に繋がる。
最後に
Julien氏の言葉を借りると、「エージェントは単なるソフトウェアではなく、成果志向の動的システムである」ということです。日本企業にとって、ADLCを採用することは、PoCで止まるAI活用から、ビジネス成果を出すAI活用へと進化するために、もはや選択肢ではなく必須の条件です。
Ichizokuはすでにこの移行を支援しています。先行した企業こそが、次の10年の競争環境をリードすることになるでしょう。
【FAQ】よくある質問
1. なぜSDLCではAIエージェントに対応できないのですか?
SDLCは決定論的な入出力を前提としますが、エージェントは成果志向・適応的・非決定論的であり、継続的な監視と設計変更が不可欠だからです。
2. ADLCとは何ですか?
Agent Development Lifecycle。エージェントを開発・監視・拡張するための方法論で、成果志向/適応性/継続監視を軸に据えます。
3. 「何を作るのか」はどう決めますか?
自律性のスペクトラムで整理します。低自律(FAQ/レポート)/高自律(コーディング/リサーチ)/ハイブリッド(契約書レビュー等)から、ROI最大のシンプルなアプローチを選びます。
4. 「誰が作るのか」は誰を想定しますか?
エージェントオーナー(成果定義・プロトタイピング・プロンプト設計)とビルダー(設計・統合)を中心に、ビジネスと技術が密接に協働します。
5. 「どう作るのか」の要点は?
成果ファーストのKPI設定、行動設計(ガードレール・適応的振る舞い)、モジュール化による拡張、評価(Evals)で失敗モードを継続分析、監督とガバナンスで記録・監査・透明性を確保します。