By Jay Revels CEO, Ichizoku株式会社
本記事は、Rubrik の Jackie Ho 氏講演「Agentic Transformation」をもとに、AIエージェント成熟度モデル(4段階)と日本企業への示唆を簡潔に整理します。実験 → 制度化 → 拡大 → 自律の道筋と、各段階での課題・成功ポイントを要約します。
重要なポイント
- 競争力の源泉へ
AIエージェントは実験段階を超え、企業の競争力を左右。予測では2028年に企業アプリの1/3がエージェント活用、意思決定の15%が自律化。 - 4段階の道筋
実験→制度化→拡大→自律の順に成熟。初期は専門知識不足・標準化欠如・ガバナンス不在が壁。 - 鍵はガバナンスと可視性
制度化・拡大期では権限設計、ポリシー、ログ/監査が要。最小権限とブラックボックス解消が拡大の前提。 - 日本企業への要点
PoC早期本番化/厳格ガバナンス/“社員同等”の監視・評価/段階的導入で、ビジネス指標に直結させる。
2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。
AIエージェントは、今や単なる実験的な技術ではなく、企業の競争力を左右する存在になりつつあります。Gartnerの予測によれば、2028年までに企業アプリケーションの3分の1がエージェントを活用し、全ビジネス上の意思決定の15%が自律的に行われるようになるといいます。
サンフランシスコで開催されたThe AI Conferenceにて、RubrikのAIプロダクトリードJackie Ho(ジャッキー・ホー)氏が「Agentic Transformation: Navigating the 4 Stages of AI Agent Maturity」という講演を行いました。その中で紹介されたのが、企業がAIエージェント導入を進める際に直面する課題と、その克服方法を示す「AIエージェント成熟度モデル」です。
Ichizokuとして参加した私自身も、日本の大企業がAI活用を進める上で直面する現実と重なる点が非常に多いと感じました。ここでは、その4つの段階を日本企業が活用できるヒントとともにご紹介します。
第1段階:実験期(Experimentation)
最初のステップは、小さなチームが安全な範囲でエージェントを試す段階です。たとえば、非クリティカルなデータに限定した読み取り専用としての利用などです。
調査によれば、約51%の企業がこの段階で留まっています。課題は以下の通りです。
- 社内にエージェント構築の専門知識が不足している
- チームごとに異なるツールを試しており標準化が進まない
- ガバナンス戦略が存在しない
あるCIOの声: 「アイデアは多いが、どれを実際のプロジェクトにすべきか判断できない。」
成功のポイント:2~3件のPoCを本番稼働させ、学習と小さな勝ちパターンを早期に作ること。
第2段階:制度化期(Formalization)
PoCが成果を出すと、組織は一気に加速します。しかし同時に、ガバナンスとセキュリティの整備が必須になります。
この段階でよく見られる取り組みは次の通りです。
- IT・セキュリティ部門を含む「AIガバナンス委員会」の設立
- データアクセス権限やエージェント利用ポリシーの策定
- 標準的なエージェント開発ツールの選定
ただし、進めるほどに摩擦も生じます。
ある企業の声: 「エージェントに書き込み権限を与え始めたが、ブラックボックス化しており、リスクを把握できない。」
成功のポイント:プロジェクトの開発スピードを「数か月」から「数週間」に短縮し、全社的な投資を得られる体制を整えること。
第3段階:拡大期(Proliferation)
この段階では、エージェントが社内のあらゆる領域に浸透します。営業支援、契約レビュー、財務レポート、ITヘルプデスクなど多岐にわたり、自動化の恩恵が実感できるようになります。
しかし、拡大期に特有の課題も顕在化します。
- 過剰な権限を持つエージェントの存在
- 機密データの漏洩リスク
- APIや統合の複雑さ
特に多い悩みは、「最小権限の原則を徹底できない」という声です。
成功のポイント:エージェントを数日単位で展開できる体制と、ログや監査による可視性や監督機能の確立。
第4段階:自律期(Autonomous AI)
最終段階は、数千単位のエージェントが連携し、エンドツーエンドの業務プロセスをほぼ自律的に遂行する未来です。AIが企業文化や業務設計に深く組み込まれ、単なるツールではなく競争優位の源泉となります。
ただし、ここでも新たな課題が残ります。
- マルチエージェント環境でのレイテンシー(遅延)とコストの増大
- 精度の「最後の一歩」を埋めるための追加調整
- 大規模ワークフローのコスト最適化
成功のポイント:AIエージェントの成果が明確にビジネス指標に結びついている状態を作ること。
日本企業への示唆
このロードマップから、日本企業にとって特に重要なのは以下の4点です。
1. PoCに留まらず早期に本番化: 成功指標を明確にし、小さくとも成果を出す。
2. 厳格なガバナンス構築:金融・製造・医療など規制の強い分野では必須。
3. 可視性を確保する:エージェントを「社員」と同等に監視・評価する。
4. 段階的に進める:すべてを一気に自律化する必要はなく、組織の成熟度に合わせた導入を。
最後に
従来のソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)は、AIエージェントの登場により限界を迎えています。これからはエージェント開発ライフサイクル(ADLC)を前提にした戦略と組織設計が求められます。
日本企業は今こそ、世界の先進事例から学び、自社の強みと文化に合った形でAIエージェント導入を進める絶好のタイミングです。Ichizokuでは、こうした成熟度モデルをベースに、日本企業が安全かつ戦略的にエージェント活用を進められるよう支援しています。
【FAQ】よくある質問
1. 4段階モデルの全体像は?
第1段階:実験(小チームで安全範囲の試行)→ 第2段階:制度化(ガバナンス委員会、権限/ポリシー、標準ツール)→ 第3段階:拡大(営業・契約・財務・ITなど全社浸透)→ 第4段階:自律(数千のエージェント連携でE2E自律運用)です。
2. 実験期の主な課題と成功ポイントは?
課題は専門知識不足、ツール乱立、ガバナンス不在で、約51%がこの段階に滞留。成功のポイントは2~3件のPoCを本番化して学習と小さな勝ちを早期に作ることです。
3. 制度化期で重視すべきことは?
AIガバナンス委員会の設置、データ/権限ポリシー策定、標準ツール選定。書き込み権限付与でブラックボックス化が懸念されるため、開発スピードを数か月→数週間へ短縮し、全社投資を得る体制づくりが要点です。
4. 拡大期のリスクと対処は?
過剰権限、機密漏洩、統合の複雑化がリスク。最小権限の原則を徹底し、数日単位で展開できる体制とログ/監査による可視性・監督を確立します。
5. 自律期に向けた焦点は?
マルチエージェントのレイテンシ/コスト、精度の「最後の一歩」、大規模ワークフローのコスト最適化が論点。成功のポイントは成果を明確にビジネス指標へ結びつけることです。