By Francisco Soares, Head of Client Solutions & AI Innovation, Ichizoku株式会社
本記事は Google Cloud の Dr. Ali Arsanjani 氏講演をもとに、「エージェント時代(Agentic Era)」の到来と日本企業が直面するセキュリティ/ガバナンス/コスト/統合の壁、そして導入のベストプラクティスを簡潔に整理します。
重要なポイント
- エージェント時代の到来
AIエージェントは実験ツールではなく企業基盤へ。PoCから本番での運用課題が顕在化。 - エージェントの本質
ゴール受領→観察→計画・実行(人/他エージェントと協調)。Google CloudはGemini 2.5/ADK/Agent Engine/Agenspace/A2A/AP2で支援。 - 落とし穴の典型
統合の難しさ/セキュリティリスク/コスト増/可観測性不足が障害に。 - 導入の勘所
小さく始める、モジュール型、ガバナンス最優先、A2Aによる協調、AP2での取引を見据える。日本企業は責任ある運用が鍵。
2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。
エージェント時代はすでに始まっている
サンフランシスコで開催された The AI Conference で、Google CloudのApplied AI Engineering ディレクターであるDr. Ali Arsanjani(アリー・アルサンジャーニ)氏の講演を聴講しました。彼が語ったのは「エージェント時代(Agentic Era)」の到来についてです。AIエージェントはもはや実験的なツールではなく、企業のオペレーションを変革する新しい基盤になりつつあります。
特に日本企業にとって、見過ごせないテーマでしょう。多くのエンジニアリングチームがすでに生成AI(Generative AI)を活用していますが、PoC(概念実証)から本番運用へ移行する段階で、セキュリティ、ガバナンス、コスト、統合といった壁に直面しています。
AIエージェントとは何か?
AIエージェントは単なるチャットボットではありません。
その特徴は以下の通りです。
1. ゴールや指示を受け取る
2. 環境を観察する(デジタル・現実の世界の両方)
3. 計画を立てて実行する(他のエージェントや人間と協調)
Google Cloudはこの実現を支えるために、Gemini 2.5モデル、Agent Development Kit (ADK)、Agent Engine、そしてAgenspaceを提供しています。さらに、A2A (Agent-to-Agent Protocol) や Agent Payment Protocol (AP2) により、安全な協調や取引を可能にしています。。
エージェント導入でよくある落とし穴
Arsanjani氏は、企業が直面することの多い課題を明確に示しました。
- システム統合の難しさ:既存のデータベースやレガシーAPIとの接続が障害に。
- セキュリティリスク:十分なガバナンスがない状態で認証情報を渡すと大きな脅威に。
- コスト増大:推論の繰り返しによる計算コストが急増。
- 可観測性不足:エージェントが失敗した際の原因究明やデバッグが困難。
日本企業のためのベストプラクティス
では、どうすれば安全かつスケーラブルにAIエージェントを導入できるのでしょうか。講演で示されたポイントと、私が日本市場で特に重要だと感じる点をまとめます。
1. 小さく始め、大きく育てる
まずはQ&A型や提案型エージェントからスタートし、人間が承認してから実行に移す。
2. モジュール型アーキテクチャ
「万能エージェント」を目指すのではなく、専門性のあるサブエージェントを組み合わせる方が効率的でリスクも低い。
3. ガバナンスを最優先に
監視・制御のためのコントロールプレーンを設け、最小権限アクセスや短期認証を適用する。
4. エージェント間協調の準備
A2Aプロトコルにより、サプライチェーンや金融業務のような複雑なプロセスでもエージェント同士が安全に連携可能。
5. 商取引の未来を見据える
Agent Payment Protocol (AP2) により、AIエージェントが安全に取引を実行できる時代が来る。ECや金融、顧客対応の自動化に直結する。
日本市場における意義
日本は深刻な労働力不足と、厳格なコンプライアンス要求という二重の課題を抱えています。エージェント時代は、これを解決する新たな道を提示しています。
- AIガバナンス
- セキュリティ
- マルチエージェント協調
これらを戦略に組み込んだ企業は、効率性だけでなく市場での信頼を勝ち取ることができます。
Ichizokuでは、日本企業が責任あるAI導入ロードマップを策定できるよう支援しています。エージェント時代はすでに始まっており、現在の意思決定こそが将来の競争優位を決定づけるのです。
最後に
Dr. Arsanjani氏の講演を通じて、私は確信しました。これは単なる技術トレンドではなく、企業のあり方そのものを変える大きな転換点です。日本企業に必要なのは、エージェントを単に「動かす」ことではなく、「責任を持って動かす」ことです。これこそが、エージェント時代を勝ち抜くための決定的要因となります。
【FAQ】よくある質問
1. AIエージェントはチャットボットと何が違うのですか?
ゴールや指示を受け取り、環境を観察し、計画して実行します。人や他エージェントと協調する行為主体である点が本質です。
2. 日本企業がPoCから本番に移る際の壁は?
セキュリティとガバナンス、コスト、システム統合、可観測性の4点が主要課題です。
3. Google Cloudが提供している要素は?
Gemini 2.5、Agent Development Kit(ADK)、Agent Engine、Agenspaceに加え、A2A(Agent-to-Agent Protocol)とAP2(Agent Payment Protocol)が安全な協調・取引を支えます。
4. ベストプラクティスの始め方は?
小さく始め、大きく育てる。まずはQ&A型や提案型で人の承認を挟み、モジュール型アーキテクチャで専門サブエージェントを組み合わせます。
5. ガバナンス面で特に重要なポイントは?
監視・制御のコントロールプレーンを設け、最小権限アクセスや短期認証を適用。エージェント間協調(A2A)と将来の取引(AP2)も前提に設計します。