By Francisco Soares, Head of Client Solutions & AI Innovation, Ichizoku株式会社
本記事は Neo4j Nyah Macklin 氏の講演をもとに、GraphRAGが従来型RAGの限界(関係性欠落/説明可能性不足/データ範囲の制約)を越え、信頼できるエンタープライズAIを実現する要点を日本企業向けに簡潔に整理します。
重要なポイント
- 従来RAGの限界
ベクトル検索のみでは関係性を見落とし、説明可能性が乏しく、構造化データの活用が不十分 - GraphRAGの中核価値
ナレッジグラフで「つながり」を直接活用し、高精度/説明可能/広いデータカバレッジ/ガバナンス強化を実現 - 実証に裏付け
回答品質3倍向上(DataTalks.World, 2023)、解決時間28.6%短縮(LinkedIn事例)、Q&A精度向上(Microsoft CTOオフィス研究) - 実務への波及
複数ソース横断推論・説明可能性・ハルシネーション抑制を満たし、実験から実用への移行を後押し
2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。
生成AIの進化はめざましいものがありますが、多くの日本企業が直面している課題は「AIがどこまで信頼できるのか」という点です。従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムは、文書検索やQ&Aに効果を発揮しますが、複雑な業務データをまたぐ推論には限界があります。
私はサンフランシスコで開催された The AI Conference に参加し、Neo4jのシニアAIデベロッパーアドボケイト、Nyah Macklin(ナイア・マクリン)氏 による講演 「The GraphRAG Advantage: Providing Enterprise-Grade Knowledge to AI Agents and LLMs」を聴講しました。そこで語られたのは、従来の枠組みを超える新しいアプローチ GraphRAG がもたらす革新についてでした。
従来型RAGの限界
現在多くの企業が採用している ベクトル検索のみのRAG には、以下のような制約があります。
1. 断片的な洞察:ベクトルは類似性は捉えられるが、関係性は見落とす。
2. 説明可能性の欠如:なぜその答えに至ったのか追跡が難しい。
3. データ活用範囲の制限:構造化データやリレーションデータを十分に活かせない。
たとえば「CEOは誰か」といった単純な質問には答えられても、「過去12カ月の取締役会で、退任したメンバーが出席した会議はどれか」といった質問には対応できません。
GraphRAGの強み
GraphRAGは検索プロセスにナレッジグラフを組み込むことで、データの「つながり」を直接活用します。
主なメリット
- 高精度:文脈と関係性を考慮し、根拠のある回答を生成。
- 説明可能性:推論経路を可視化でき、コンプライアンス対応にも有効。
- データカバレッジ:構造化・非構造化データを統合的に活用可能。
- ガバナンス強化:アクセス制御や監査性を担保。
金融、製造、医療、物流など日本の主要産業にとって、GraphRAGは「信頼できるAI活用」への大きな一歩です。
実証結果
講演では、GraphRAGの効果を裏付ける複数の調査結果が紹介されました。
- 回答品質が3倍向上(DataTalks.World, 2023)
- 顧客対応の解決時間を28.6%短縮(LinkedInのカスタマーサービス事例)
- Q&A精度向上(Microsoft CTOオフィスの研究)
これらは、日本企業が求める 業務にインパクトを生むAI の方向性を明確に示しています。
AIエージェントに与えるインパクト
生成AIエージェントが実務に組み込まれると、以下が不可欠になります。
- 複数データソースを横断した推論
- コンプライアンス部門に説明可能な出力
- ハルシネーションの抑制
GraphRAGでエージェントを支えることで、実験段階から実用段階へスムーズに移行できます。
AIエージェントに与えるインパクト
1. 自社ナレッジグラフの整備:業務データのエンティティと関係性を整理。
2. ハイブリッドRAGの導入:ベクトル検索とグラフ検索を組み合わせる。
3. 説明可能性を重視:生成結果を監査・追跡できる仕組みを持つ。
サプライチェーン最適化、コンプライアンス自動化、顧客体験の高度化など、GraphRAGは日本企業に直結するユースケースを多数持っています。
最後に
AIの「エージェント時代」において、成功の鍵はナレッジグラフを活用したGraphRAGアーキテクチャです。これは単なる技術トレンドではなく、企業が安心してAIを活用し、ROIを確実に生み出すための基盤となります。Neo4jが示したGraphRAGの可能性は日本企業にとって、生成AIを本当に使いこなすための道標になるでしょう。
【FAQ】よくある質問
1. 従来型RAGの“限界”とは何ですか?
類似性は捉えられるが関係性を見落とす/理由の追跡が難しい/構造化やリレーションデータを十分活かせないことです。
2. GraphRAGは何が違うのですか?
検索にナレッジグラフを組み込み、エンティティ間の“つながり”を直接利用することで、高精度・説明可能・広いデータ活用・ガバナンスを両立します。
3. どんな効果が示されていますか?
回答品質3倍向上、顧客対応の解決時間28.6%短縮、Q&A精度向上などの結果が紹介されています。
4. エージェント導入での利点は?
複数データソース横断の推論、コンプライアンス部門に説明可能な出力、ハルシネーション抑制が実現し、本番適用へスムーズに移行できます。
5. 日本企業が今やるべきことは?
自社ナレッジグラフの整備(エンティティと関係性の整理)、ハイブリッドRAGの導入(ベクトル+グラフ)、説明可能性の重視(監査・追跡の仕組み)です。サプライチェーン最適化やコンプライアンス自動化、顧客体験高度化に直結します。