【The AI Conference 2025】Uberの生成AI活用から学ぶ顧客体験変革

By 野村 肇 Head of Sales, Ichizoku株式会社

本記事は、「Transforming Uber’s Customer Experience with Generative AI」をもとに、超大規模マーケットプレイスで、CX(カスタマーエクスペリエンス)を変革する生成AIの実装要点を日本企業向けに簡潔に整理します。ビジネスKPI連動・二段構えのAIソリューション・意思決定エージェント化・測定の文化に焦点を当てます。


重要なポイント
  • AIは事業の中核
    解決時間・CSAT・品質・P&Lに全AIプロジェクトを紐づけ、専用予算と学習サイクルで本番適用を継続。
  • Nova × ScoutでCXを高速化
    月1,500万会話/約90%精度、70–80%自動解決、人は高付加価値案件へ集中。
  • 支援から意思決定へ進化
    Lumen(ルール・ポリシーエンジン)とPhoenix(アダプティブ・オートノミー)で自律的判断に段階移行。
  • 測定が信頼を生む
    人→AI、AI→人、AI→AIの三層評価で4,000万件/月の会話ログを監査し、プライバシー・安全性を担保。

2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。


「Transforming Uber’s Customer Experience with Generative AI」 このセッションタイトルを目にした瞬間から、私は惹き込まれました。世界70カ国、15,000都市、月間10億件を超えるトリップ、1億8千万人以上のアクティブユーザー。これがUberのスケールです。その背後では、ライダーとドライバー、注文者と配達員、レストランや店舗といった複雑なマーケットプレイスが絡み合い、毎月200億件のメッセージと4,000万件の会話が発生しています。

この規模で、どのようにして効率性・パーソナライズ・信頼を同時に実現するのか。答えは、生成AIを活用した次世代エージェントでした。

ビジネス成果に直結するAI

Uberのアプローチで最も印象的だったのは、AIを“nice to have(あると良いもの)”ではなく、ビジネスの中核に据えていることです。

すべてのAIプロジェクトは、以下の成果に紐づけられます。

  • 解決時間の短縮
  • 顧客満足度(CSAT)の向上
  • 品質改善
  • P&Lへのインパクト

また、95%の生成AIプロジェクトがPoC止まりで終わるとされる中、Uberは専用予算を設け、失敗から素早く学び、成功をスケールさせる体制を持っています。さらに、Michelangelo AIゲートウェイによるプライバシー・安全性ガードレールも徹底されていました。

Nova と Scout UberのAIソリューション

Nova(ニューロ・オムニチャネル・バーチャルアシスタント)
  • 月間1,500万件以上の会話を処理、約90%の正確性
  • 問い合わせの70〜80%を自動解決
  • 料金返金などを自律的に処理
  • センシティブな事案は人間にエスカレーション

Scout(AIコパイロット)
  • 顧客履歴や意図を瞬時に要約
  • ポリシーに基づいた「次の最適アクション」を提案
  • 共感的でブランドに沿った応答を自動生成
  • 人間の担当者は高付加価値な案件に集中可能

この2つのソリューションによって、顧客体験はスピーディかつパーソナライズされ、社員はより重要な仕事に注力できるようになっています。

アシスタントから意思決定者へ

​​Uberは次の進化に向かっています。単なるアシスタントから、意思決定を行うエージェントへ。

  • Lumen(ルール・ポリシーエンジン)
    全マーケットプレイスで一貫性とコンプライアンスを保証

  • Phoenix(アダプティブ・オートノミー)
    想定外のケースでも、ガードレール内で柔軟に対応

これは従来のルールベース自動化から、AIによるポリシー推論へと移行する大きな一歩です。

信頼を築く「測定の文化」

Uberが他社と一線を画すのは、測定を後付けせず、AIスタックの初期段階から組み込んでいることです。

  • 人間がAIを評価 → 正確性・ギャップを確認
  • AIが人間を評価 → 感情、努力度、解決度からCSATを推定
  • AIがAIを評価 → 大規模な自動テスト

これにより、毎月4,000万件の会話ログを監査可能とし、信頼性と安全性を担保しています。

日本企業への示唆

Uberの事例から、日本企業が学ぶべきことは明確です。

1. 成果に直結するAI導入:P&LやCSATなど、具体的なKPIと紐づける。
2. 実験予算の確保:失敗を前提にした小規模パイロットを繰り返す。
3. AIに最適化された業務設計:ポリシーの簡素化、説明可能性、データ統合。
4. ガードレールによる信頼構築:プライバシー、リスク管理、人間の関与。

支援から意思決定へ。段階的に自律的エージェントへ移行する設計。

最後に

Jai Malkani(ジャイ・マルカニ)氏の言葉を借りると、「AIはnice to haveではない。Uberの事業運営そのものだ。」ということです。

この視点は、日本企業にとっても強いメッセージです。生成AIを単なるチャットボットに留めず、顧客体験を変革し、事業を成長させる中核技術として捉えるべき時が来ています。Ichizokuとしても、日本の企業がAIを「実験」から「本番」へ移行するための支援を続けていきます。


【FAQ】よくある質問

1. UberはAIをどのKPIに紐づけていますか?

解決時間、CSAT、品質、P&Lに紐づけています。

2. Nova と Scout はそれぞれどのような役割を担っていますか

Novaは月1,500万件超、約90%精度、70〜80%自動解決のバーチャルアシスタント、Scoutは次の最適アクション提案と共感的応答生成を担うAIコパイロットです。

3. 意思決定エージェント化はどのように実現しますか?

Lumenで一貫性とコンプライアンスを保証し、Phoenix で想定外ケースにもガードレール内で柔軟に対応します。

4. 信頼を担保する測定の仕組みについて教えてください。

人→AI、AI→人、AI→AIの三層評価を初期からAIスタックに組込み、毎月4,000万件の会話ログを監査可能にしています。

5. 日本企業への示唆は何ですか?

KPIに直結した導入を「実験予算の常設」で継続し、業務・ポリシーをAI最適化、ガードレールを標準化したうえで、支援型(Nova/Scout)から意思決定型(Lumen/Phoenix)へ段階的に移行することです。

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