By Jay Revels CEO, Ichizoku株式会社
本記事は、The AI Conference 2025 の Dr. Garth Andrus 講演内容をもとに、「技術は正しいのにAIが失敗する」根本原因=組織DNAの不一致を日本企業向けに簡潔に整理します。意思決定・業務設計・リーダーシップ・文化をプレAIからAI対応へ再配線する指針を解説します。
重要なポイント
- 失敗の主因は技術ではなく組織
AIを旧来モデルに組み込むと崩壊、荷車にジェットエンジンの比喩が示す通り。 - 日本のブラインドスポット
安定・管理・予測可能性を重視する慣行が、意思決定の遅延・静的職務・リスク回避・協働抵抗を招く。 - プレAI→AI対応への再配線
構造・ワークフロー・学習・ガバナンスを分散、適応、継続学習、アジャイルへ転換し、AIも意思決定に参加。 - 今こそ行動
競争の本質は最高モデルではなく活かせる組織DNA。再設計できなければ、競合に大きく引き離される。
2025年9月にシリコンバレーで開催されたThe AI Conference 2025に参加した際のレポート「Silicon Valley Trip Report #03 The AI Conference 2025 シリコンバレーから学ぶ日本への示唆 – 業界を牽引するリーダーたちが語る、世界の AI潮流と日本企業の次の一手 -」から抜粋しお届けします。フルバージョンはこちらからダウンロード頂けます。
テクノロジーは正しくても、失敗するのはなぜか
サンフランシスコで開催された The AI Conference 2025 で、印象的なシーンがありました。Anderson Consultingのグローバルリーダーである Dr. Garth Andrus(ガース・アンドラス)博士は、こう問いかけました。
「馬に引かれた古い荷車に、強力なジェットエンジンを取り付けたらどうなるでしょう。」
エンジンを始動した瞬間の結果は?荷車は制御不能に揺れ、木材は裂け、車輪は外れ、最終的に荷車はバラバラに崩壊してしまう。
博士が示したのは、AIを旧来型の組織モデルに組み込む危険性でした。失敗の原因はAIそのものではなく、AIを受け入れる「組織の側」にあります。実際に、70〜80%の企業AIプロジェクトは期待した成果を出せていないのです。その理由は、技術の欠陥ではなく、意思決定・業務設計・リーダーシップ・文化が依然として、プレAI時代のままだからです。
日本企業に潜む「組織的ブラインドスポット」
日本企業もAI投資を加速していますが、同じ壁にぶつかっています。その理由は、多くの組織が、安定性・管理・予測可能性を重視した旧来型モデルのままだからです。
- 硬直的なヒエラルキーが意思決定を遅らせる
- 静的な職務定義がAIによるワークフロー変化についていけない
- リーダーシップの思考がリスク回避を優先し、実験的な適応を阻む
- 文化的規範が「人とAIの協働」に抵抗する
言い換えれば、私たちは「明日のAI」を「昨日の組織DNA」で動かそうとしているのです。
プレ AI DNA から AI 対応DNAへ
Andrus博士とMITの研究によると、この変革は組織DNAの再配線だと説明されます。
- プレAI時代の前提:人間が情報を処理し、技術は単なる支援ツール
- AI時代の前提:AIは知的パートナーであり、技術は組織のオペレーティングシステム
必要なシフト
- 構造:硬直的なサイロ型 → 柔軟で分散型、AIエージェントも意思決定に参加
- ワークフロー:線形・ボトルネック型 → 適応的で反復的
- 学習:一律的な集合研修 → 個別最適化された継続的・オンデマンド学習
- ガバナンス:中央集権的で遅い承認 → 透明でアジャイル、AI活用による迅速な意思決定
こうしたシフトがなければ、AIは実験段階に留まり、企業全体を変革することはできません。
日本企業への提言
Ichizokuの立場から、特に日本のリーダーに伝えたいポイントは次の通りです。
1. オペレーティングモデルの再設計
単なる組織図の変更ではなく、意思決定・ワークフロー・人とAIの協働モデルを再設計することが必要。
2. 意思決定の民主化
AIをIT部門のサイロに閉じ込めない。人とAIの双方に意思決定権を拡張する。
3. 職務から適応的な役割へ
固定的な職務定義は時代遅れ。AIによって役割は常に進化し、柔軟に更新されるべき。
4. リーダーシップの進化
最大のリスクは「何も変わっていないかのようにリードし続ける」こと。リーダー自らが適応力を示し、実験を後押しする必要がある。
今こそ行動すべき理由
日本の企業文化には「信頼」「階層」「リスク回避」が深く根付いています。だからこそ、Andrus博士が語った課題は日本において一層切実です。
競争の本質は、最高のAIモデルを持つことではなく、AIを活かせる組織DNAを作れるかどうかにあります。今行動する企業が未来のリーダーとなり、変わらない企業は Intel のように競合に大きく引き離されるでしょう。
最後に
セッションを終えて私が心に残った言葉はこれです。
「AIが失敗するのはモデルのせいではない。組織がプレAI時代のままだからだ。」
Ichizoku、そして日本の企業にとっても、2025年の最大の課題は、AIツールの導入そのものではなく、それを価値に変えられる組織を再構築できるかどうかにかかっています。
【FAQ】よくある質問
1. なぜ「技術は正しい」のにAIが失敗するのですか?
理由は組織側にあります。意思決定・業務設計・リーダーシップ・文化がプレAI時代のままだと、AIを組み込んだ瞬間に矛盾が噴出します。
2. 何が“組織DNAの再配線”ですか?
構造・ワークフロー・学習・ガバナンスを、プレAI前提からAIを知的パートナーとする前提へ入れ替える取り組みです。
3. 具体的にどんなシフトが必要ですか?
サイロ→分散、線形→適応的、一律研修→継続/オンデマンド学習、中央集権承認→透明で迅速な意思決定(AI参加を含む)への転換です。
4. 日本企業は何から始めるべきですか?
オペレーティングモデルの再設計、意思決定の民主化、職務から適応的役割へ、リーダーシップの進化を段階的に進めます。
5. なぜ「今」動く必要があるのですか?
信頼・階層・リスク回避が強い文化では遅延リスクが高く、AIを価値に変える組織を作れた企業が将来のリーダーになります。動かなければ競合に大きく水をあけられます。