サイトからCookieをなくして2年:私たちはどこにたどり着いたのか

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2024年1月、私は sentry.io からすべての広告 Cookie とユーザートラッキングを削除したことについて書きました。当時、その決定から8か月が経っていましたが、何が壊れ、何が予想外だったのかを、まだ検証している最中でした。その記事は大きな反響を呼びました。おそらく、これまで私たちが公開した記事の中でも最も多く読まれたものの一つです。理由は単純で、Web 上でプロダクトを作ったり運営したりしている誰もが、同じ Cookie 廃止の流れを見つめながら、「もし本当に誰かが思い切って全部やめたら、実際どうなるのか?」を気にしていたからだと思います。

それから、もう2年以上が経ちました。私たちは Cookie を戻していません(そもそも戻すつもりもありませんでした)。そして、その結果として、成長予算の使い方はかなり大きく変わりました。最初から壮大な戦略を立てていたわけではありません。ですが、Cookie をなくしたことで、「どこにお金を使うべきか」「その投資に何を期待するのか」を考え直さざるを得なくなったのです。現在、私たちの成長予算のおよそ70%は認知向上に使われています。実際には、たとえば次のような取り組みです。

私たちは Golden State Warriors、Golden State Valkyries、そして Chase Center と複数年契約を結びました。

 

コアとなるビジネスモデルや、その他すべての施策も含めると、こうした投資は確実に成果を上げています。新規のアクティブユーザー数は指数関数的に成長しています。

Sentryの新規アクティブユーザーの指数関数的な増加を示すグラフ

こうしたタイプの投資は、開発者向けに製品を販売している企業としてはかなり珍しいものです。ただ、私たちも最初から大きな施策を打っていたわけではなく、もっと小さなところから始めました。ここまでで、私が学んだことを紹介します。

 

ソフトウェアの見つけられ方が変わっている

もしプロダクトを作っているなら、すでに感じているかもしれません。人々がツールを見つけ、評価する方法は、いま大きく変わりつつあります。

以前は、かなり予測しやすい導線がありました。誰かが Google で問題を検索し、いくつかの検索結果をクリックし、比較記事を読み、トライアルに登録する。コンテンツを書き、広告を出し、SEO を行い、その流れの中で見つけてもらえれば、プロダクトは成長できました。

ですが、その流れは以前ほど信頼できるものではなくなっています。Google からのリファラルトラフィックは減少し、ゼロクリック検索は増加しています。Semrush の 2025年のデータによると、現在では Google 検索のおよそ60%が、どの Web サイトにもクリックされずに終了しています。AI Overviews が表示される場合、オーガニック検索のクリック率はおよそ40%低下します。さらに、人々のフィードや受信箱は、ますます精巧になった AI 生成コンテンツや営業アプローチで埋め尽くされています。その結果、本当に価値のあるものが埋もれずに届くこと自体が難しくなっています。

その一方で、多くの企業が AEO/GEO(Answer Engine Optimization / Generative Engine Optimization、つまり LLM に自社製品を推薦させるための最適化)を必死に模索しています。将来的には、数百万、あるいは数十億ドル規模の価値につながる可能性があるからです。ただ残念ながら、現時点で広まりつつある手法は、リスト記事を大量生産したり、AI 生成テンプレートをばらまいたり、比較ページで競合を攻撃したりと、かなり質の低い方向へ向かっています。

ゼロクリック検索の傾向とAIによる回答の増加を示すデータ

要するに、オーガニックトラフィックは以前より少なくなり、かつてはユーザー自身がクリックして訪れていたサイトへの導線を、今では LLM が代わりに推薦するようになっています。そしてインターネット全体のノイズは増え続けています。もし自社プロダクトを人々に届けたいのであれば、従来のやり方は急速に通用しなくなりつつあります。

こうした状況を踏まえて、私たちは「ノイズを上回る量を作ること」が Sentry の成長戦略ではないと考えるようになりました。むしろ、本物らしさが積み上がっていくチャネル、人々が実際に時間を使っている場所、感情的なつながりが存在する場所に現れること。そして、何が機能しているのかを実際に確認できるよう、段階的に投資していくことです。

 

認知向上への投資は、いまでは別の形で成果を生む

私の「どこにお金を使うべきか」という考え方を変えたことの一つは、認知向上に効くチャネルが、そのまま LLM が推薦を行う際の情報源にもなっているという点です。

YouTube は、AI 生成回答の中で最も頻繁に引用されるソーシャルプラットフォームとして、すでに Reddit を上回っています。Bluefish のデータ(Adweek 掲載)によると、過去6か月間で、LLM の回答のうち約16%が YouTube を引用しており、Reddit は10%でした。また、Goodie AI による610万件の引用分析では、ソーシャル系引用に占める YouTube の割合は、2025年8月から12月の間におよそ2倍になっています。

開発者が、誰かが Sentry を使って hydration error をデバッグしている技術系 YouTube 動画を見る――それは一つの話です。しかし、「hydration error を検出する最適なツールは?」と誰かが尋ねた時に、LLM がその動画を引用するとなると、話はまったく別です。ブランド認知、発見可能性、LLM による推薦は、もはや別々の問題ではありません。いまでは同じ問題になっています。

開発者インフルエンサーの動画に投じた1ドルは、その3つすべてに同時に効いてきます。この点については、LinkedIn の優れたスレッドがあります。

これは、Cookie を削除した時には予想していなかった副次的なメリットの一つでした。以前の記事では、Cookie を使わない方針によって、私たちは自己申告型アトリビューション(登録時に「どこで私たちを知ったか」を尋ねる方法)や、全体的な計測(ピクセル単位の追跡ではなく、混合データを見る方法)へ移行せざるを得なくなった、と書きました。ですが、その発想の転換こそが、認知向上施策へ自信を持って投資できる理由になりました。なぜなら、こうしたチャネルは、どのトラッキングダッシュボードにも綺麗には現れないからです。もし昔のアトリビューション基盤をそのまま維持していたら、ここまで大きな賭けに踏み切る確信を持てていたか、正直かなり怪しいと思います。

 

測定できるものだけに投資するという罠

ここからは、企業が「成長のためにお金をどう使うか」をどう考えているのかについて、少し業界内の話をします。ですが、サイドプロジェクトを含め、何かプロダクトを作っている人にとっては有益な文脈だと思います。

IPA の調査(LinkedIn の B2B Institute によって広く知られるようになったもの)によると、ブランド構築とダイレクトレスポンス施策の理想的な予算配分は、ブランド寄りの60/40だとされています。しかし、実際には多くの企業がその逆をしています。Refine Labs の調査では、典型的な企業は、予算のおよそ80%を即時に測定可能な施策(有料検索、リターゲティングなど)に投じ、長期的な認知形成につながる施策には20%しか使っていないことが分かっています。

理由は単純です。「X 円使って Y 件の登録がありました」とダッシュボードで示せるほうが、予算を正当化しやすいからです。

その結果、私は複数の企業で同じサイクルを見てきました。SEO、有料検索、リターゲティング広告に投資する。ダッシュボード上では良い結果が出る。そのチャネルを限界まで使い切る。すると成長が頭打ちになる。組織変更を行い、トピックを拡張し、さらに強化する。それでも成長速度は上がらない。最終的に誰かが焦り始め、「リブランドをしよう」「Web サイトを全面刷新しよう」という話になるのです。

もっと難しいけれど、より本質的な問いはこうです。誰かが YouTube 動画であなたの製品を見たこと、ポッドキャストで名前を聞いたこと、ビルボードでロゴを見かけて、その3週間後に Google で検索したことを、どうやって測定するのでしょうか。

Wynter の調査ではB2B SaaS 企業の50%は、ブランド認知をそもそも測定しようとしていません。業界の半分がそれを測定していない一方で、測定可能なチャネルの効果はどんどん悪化しています。

Sentry では幸運なことに、認知向上への投資価値を理解している経営陣がいました。多くの企業では、これは社内的にかなり説得が難しい話です(きれいな ROI の説明なしに予算を求めるようなものだからです)。私たちが Web サイトからサードパーティ広告 Cookie を削除した時(その経緯についてはこちらで書きました)、トラッキングデータへの依存が取り払われました。それは、苛立たしいと同時に、多くの気づきも与えるものでした。そして結果として、成長に役立ついくつかの習慣を私たちに強制することになりました。

  • 直感を信じること。YouTube で見るもの、Reddit で読むもの、同業者から勧められるもの、あるいは印象的な場所にあるビルボードに、自分たちが影響を受けていることは、誰もが感覚的には分かっています。ですが、それをスプレッドシートで証明できないと、実際に行動へ移すのは難しいのです。
  • 全体的なデータを見ること。私たちがトップ5のテック系ポッドキャストへ大きく投資した時、その四半期には、帰属不明・ダイレクト・オーガニックの登録数が増加しました。その関連性を結びつけるために、細かなトラッキングは必要ありませんでした。全体の数字が、それを裏付けていたからです。
  • テストと失敗を恐れないこと。私たちは、ポッドキャスト、インフルエンサー、さまざまなチャネルで何度も失敗してきました。しかし、失敗のたびに、大きな成長につながるチャネルが一つは見つかっています。数年単位で考えるなら、それは十分に見合うトレードオフです。

 

 

私たちが投資する際のフレームワーク

ここからは、Sentry でうまく機能してきた基本的なアプローチを紹介します。これは、スケールしながらも、オーディエンスとの距離感や本物らしさを保つのに役立ってきました。イメージとしては、同心円のような構造です。

Sentryの段階的な認知度向上投資フレームワークを示す同心円図:まず開発者、次にテクノロジー、そしてより幅広いオーディエンスの関心

まずは、すでに確実だと分かっている対象から始めます。インフルエンサー、ポッドキャスト、ニュースレターの中でも、自分たちが作っているプロダクトの対象ユーザー「だけ」に向けて発信しているものに集中するのです。私たちの場合は開発者なので、マーケティングチームや営業担当者には興味を持たれないような、かなり技術寄りのコンテンツを重視しています。たとえば、TLDR Web Dev や Bytes のようなニュースレター、Syntax.fm のようなポッドキャストです。

そして、その領域で十分に浸透したら、次はより広いカテゴリへ進みます。私たちの場合は「テクノロジー」全般、つまりアプリケーション開発に興味を持つ人々です。

最後に、自分たちのカテゴリを超えて、オーディエンスが何に関心を持っているのかを把握します。私たちは Reddit に依頼して、ターゲットユーザーが他にどんな subreddit を見ているのかを分析してもらいました。その結果として返ってきたのが、金融、テクノロジー、コメディ、そしてスポーツ(特にバスケットボールと F1)でした。そのインサイトがきっかけとなり、私たちは Warriors や Valkyries と提携し、WTF1 や The Race のようなポッドキャストのスポンサーにもなりました。

自分たちのブランドが、オーディエンスの好きなものを支援している姿を見せることは、より深い結びつきを生みます。もちろん、開発者よりもバスケットボールを見る人のほうが多いでしょう。ですが、ベイエリアやその外にいる熱心な開発者たちがこれを見て、Sentry に対してより深いレベルで親近感を持ってくれれば、と私たちは考えています。

Sentryとゴールデンステート・ウォリアーズ、ヴァルキリーズ、チェイスセンターとのパートナーシップ

ゴールデンステート・ヴァルキリーズのプレシーズンゲーム中にWNBAコートに表示されたセントリーのロゴ

重要なのは、これを波のように、段階を踏んで進めることです。すべてを一度にやってしまうと、何が効果を生んだのか分からなくなってしまいます。

 

うまくいっているかをどう判断するか

こうした施策は、タイミングをきちんと見ていなければ機能しません。キャンペーンがいつ公開されたのか、反応が現れるまでにどれくらい時間がかかるのか、どの登録チャネルが動くはずなのか、そこを把握する必要があります。

私はチャネル別の登録数を週次の時系列で見て、どの週に大きな施策を行ったかを注記するのが好きです。これは完璧なアトリビューションではありません。ですが、方向性を見るには十分です。そして、その方向性さえ分かれば、うまくいっている判断を積み重ねながら、成果の出ない実験を切り捨てていけます。

軽く言っているように聞こえるかもしれませんが、私は時々、この問題を私たちは複雑にしすぎているのではないかと思います。認知の追跡は、人々が考えているよりも、もっとシンプルでよいのかもしれません。

主要キャンペーンの開始時期を注釈として付けた、週ごとの登録者数時系列チャート

 

以前の「Cookie をやめた」という記事の中で、私たちは Cookie を使わない運用へ移行した後でも、アトリビューションデータのおよそ50%は維持できたこと、そして「どこで私たちを知りましたか?」という自己申告型アンケートを導入したことを書きました。

あれから2年が経ち、そのアンケートは、私たちにとって最も価値のあるデータソースの一つになっています。それによって、YouTube が想像以上に認知を生み出していたこと、特定のポッドキャストスポンサー施策が実際に効果を上げていたこと、そして開発者同士の口コミが、私たちがこれまで実施してきたどのディスプレイ広告キャンペーンよりもはるかに大きな影響力を持っていたことが分かりました。トラッキングピクセルを失ったことで、逆に「本当に機能しているもの」への理解が深まった、その皮肉さはいまだに不思議な感覚があります。

 

結論

こうしたチャネルは、私自身も完全には予想していなかったレベルの成長をもたらしました。もちろん、これがすべての企業にとって正しいやり方だと言いたいわけではありませんし、測定そのものを捨てるべきだと言っているわけでもありません。ですが、従来の予測しやすいチャネルが頭打ちになっているのであれば、段階的なアプローチ(一度に一つずつ投資していく方法)を試してみる価値はあります。

2年前、私たちはすべての広告 Cookie を削除し、「何が起きるか見てみよう」と考えました。実際に起きたのは、「測定しやすいもの」を最適化するのをやめ、「本当に機能すると自分たちが信じているもの」へ投資するようになったことです。その結果として、私たちは顧客をより深く理解できるようになり、それが最終的には、多くの学びと大きな成長につながっていきました。

 

 

FAQ


 
■ 広告 Cookie を削除すると成長は鈍化しますか?

長期的には、必ずしもそうではありません。Sentry は 2023年半ばにすべての広告 Cookie を削除しましたが、その後、新規アクティブユーザー数は指数関数的に成長しました。この変化によって、予算配分はブランド認知チャネルへ移行し、結果として、パフォーマンスマーケティング単体よりも持続性の高い成長につながりました。

■ トラッキングピクセルなしで、ブランド認知はどう測定するのですか?

Sentry では、「どこで私たちを知りましたか?」という自己申告型アンケート、キャンペーン開始時期を注記した週次登録数の時系列データ、そして全体的な混合指標を活用しています。ピクセル単位のアトリビューションがなくても、方向性が分かるデータだけで十分に自信を持った意思決定が可能です。

開発者向けプロダクトでは、どのマーケティングチャネルが効果的ですか?

Sentry にとって最も成長につながったのは、技術系 YouTube 動画、Syntax.fm のような開発者向けポッドキャスト、TLDR Web Dev のようなニュースレター、Reddit、そして屋外広告(OOH)でした。基本的なアプローチは、まず自社のターゲットユーザー「だけ」に届くチャネルから始め、その後、段階的により広い層へ展開していくことです。

 

 

Original Page: Two years without cookies on the site, here’s where we ended up

 

 




IchizokuはSentryと提携し、日本でSentry製品の導入支援、テクニカルサポート、ベストプラクティスの共有を行なっています。Ichizokuが提供するSentryの日本語サイトについてはこちらをご覧ください。またご導入についての相談は「お問い合わせ」からお気軽にお問い合わせください。

 

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